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大阪地方裁判所 昭和50年(ワ)3740号 判決

原告

株式会社富島組

被告

西日本酸素工業株式会社

主文

被告は、原告に対し、金四〇五万円および内金二二五万円に対する昭和五〇年八月一四日から、内金一八〇万円に対する同年一二月二日から各支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その二を原告の負担とし、その三を被告の負担とする。

この判決は原告勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告は、原告に対し、金六七五万円および内金三七五万円に対する本訴状送達の日の翌日から、内金三〇〇万円に対する訴え変更申立書送達の日の翌日から各支払いずみにいたるまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

被告は口頭弁論期日に出頭しないが、その陳述したものと看做された答弁書には、つぎのとおりの記載がある。

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二請求原因

一  事故の発生

1  日時 昭和四九年一〇月二日午前九時三〇分頃

2  場所 長崎市土井首町五一四番地、前浜水産加工所前工事専用道路上

3  加害車 大型貨物自動車(ダンプカー)(原告が所有する。)

右運転者 訴外田中勝喜(原告が雇用している。)

4  被害者 訴外亡岩永芳真(当時四六歳)

5  態様 田中が加害車の荷台に土砂、岩石を積み、右工事専用道路を採土現場から船積現場に向けて時速約三〇キロメートルで走行中、前記場所にさしかかつたが、その走路上において水道管埋設工事のためコンクリート路面を掘削中の亡芳真の傍らを通過した際、荷台の岩石が路面に落下し、跳ねてこれが同人に激突した。

二  責任原因

1  原告

原告は、建設業を営むものであるが、その被用者田中が、加害車で原告の業務である土砂、岩石の運搬を行つていたところ、過失(積荷の転落防止について十分配慮することなく加害車を走行させたため岩石を落下させた。)により本件事故を生ぜしめたものであるから、使用者として、本件事故による損害を賠償すべき責任がある。

2  被告

被告は、水道管、ガス管の配管工事等を業とするもので、亡芳真の使用者であるところ、何らの安全措置を講ずることなく、ダンプカーの往来の頻繁な工事専用道路において、同人をして道路面の掘削工事に従事させたものであつて、過失(不法行為)により、また、雇傭契約上の債務不履行(安全配慮義務違反)により本件事故を生ぜしめたものというべく、本件事故による損害を賠償すべき責任がある(一次的に不法行為責任を、二次的に債務不履行責任を主張する。)。

すなわち、本件事故現場は、原告が専属的に使用している工事専用道路(採土現場から船積現場までを結び、採掘された土砂、岩石をダンプカーに積載して運搬するためにのみ使用されていた。)上であるから、原告としては、工事関係者以外の第三者が立ち入ることなどありえない場所と考えていた。したがつて、被告が右道路内に立ち入つて工事をする場合は、原告に対してあらかじめその旨の連絡をすべきであり、本件の場合でも、もし、被告が連絡をしていたならば、原告としても、従業員に工事が行われることを周知認識させる等本件のごとき事故が発生しないよう万全の措置をとることができたのに被告が右連絡を怠つたためこれができず、本件事故を生ぜしめるに至つたものである。

三  死亡

芳真は、本件事故により心臓タンボナーテによつて死亡した。

四  原告の本件事故による損害の賠償

原告は、亡芳真の妻岩永恵美子、同人ら間の子秀子、同敏明、同克紀、同平恒子との間で、昭和五〇年五月一七日、つぎのとおりの示談契約を締結し、本件事故により亡芳真およびその相続人である右五名が被つた損害の賠償として計一三五〇万円の支払を終えた。

1  原告は、本件事故により亡芳真およびその相続人である右五名が被つた損害の賠償として、同人ら五名に対し不可分債務一三五〇万円の支払義務があることを認める(ただし、労災保険による遺族補償給付金はこれに充当しない。)。

2  原告は、右金員をつぎのとおり分割して支払う。

(一) 昭和五〇年五月一七日限り三五〇万円

(二) 昭和五〇年六月から同年一〇月まで毎月末限り一月につき二〇〇万円ずつ

五  負担割合

本件事故の発生につき、原、被告それぞれに同程度の過失があると思料されるから、原、被告の負担部分はいずれも二分の一である。

六  結論

よつて、請求の趣旨記載のとおりの判決(内金三七五万円は、本訴提起までに原告が支払つた七五〇万円の二分の一であり、内金三〇〇万円は、本訴提起後訴え変更申立書提出までの間に原告が支払つた六〇〇万円の二分の一である。付帯請求は、民法所定の年五分の割合による遅延損害金である。)を求める。

第三請求原因に対する答弁

陳述したものと看做された答弁書には、つぎのとおりの記載がある。

一については、2、5に関して、亡芳真が掘削していた場所が車両の走路上であつたとの点は否認し(これについては二についての答弁において述べるとおりである。)、その余は認める。

二の1は認め、2のうち、被告の業種、被告が亡芳真の使用者であつたことは認め、その余は否認する。

本件事故現場付近の工事専用道路の車道幅員は約八メートル、その歩道幅員は約八五センチメートルあり、亡芳真は、その歩道内に四メートルの間隔で工事用バリケードを一個ずつ並立させ、このバリケード間の歩道上で工事をしていたし、また、工事専用道路の使用については、被告が事故の前日道路管理者から許可を得ていたものであつて、被告は、危険防止措置を十分講じていたものである。本件事故は、もつぱら田中の所定量超過の積載前方不注視、ハンドル操作の不適当の過失により生じたものである。

三は認める。

四は不知。

五、六は争う。

第四証拠関係〔略〕

理由

第一事故の発生

請求原因一のうち、亡芳真が工事に従事していた場所が車両の走路上か歩道上かという点(これについては、後記第二の二で認定するとおりである。)を除くその余の事実は、当事者間に争いがない。

第二責任原因

一  原告

請求原因二の1の事実は、当事者間に争いがなく、したがつて、原告は、不法行為責任に基づき本件事故による損害を賠償すべきものである。

二  被告

被告が水道管、ガス管工事等を業とするもので、亡芳真の使用者であつたことは当事者間に争いがなく、その方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲一三号証の一ないし一一、一四ないし一六号証、証人中西漠の証言および弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

1  本件事故現場は、埋立工事用の土砂、岩石を運搬するための工事専用道路上の前記場所であつて、この道路は、毛井首土取山の採掘工事現場と土砂、岩石を船積みする岸壁とを結ぶ全長約七〇〇メートル、幅員約七・八メートルのアスフアルト舗装された道路で、現場付近では、ほぼ南北に走り、その幅員は約九・三メートルとなつており(同所に歩道部分のあることを認めるに足りる証拠はない。)その沿線東側は山地の崖となり、その崖には土砂崩壊防止用セメントが吹きつけられており、その沿線西側は工業団地であり、前浜水産加工所、荒井水産加工所、佐藤造船所、林兼造船所などの工場その他の諸施設が立ち並んでいること

2  右道路は、土砂、岩石等を満載した工事用の車両が頻繁に往来するため極めて危険であり、事故発生を防止するため、これを管理する長崎県臨海開発局が右道路の制限速度を毎時三〇キロメートルとし、かつ、一般車両等の通行を禁止していること、さらに、同局は、右道路内で土砂、岩石の運搬作業をする訴外佐伯建設工業株式会社に対し、右道路に一般車両等が立ち入つたり通行したりしないように看視し、一般道路との接点には棚やバリケードを設置するよう指示し、一般車両等が右道路内に進入しているのを認めた時は、これを排除するように義務付けていたので、実際にも工事専用道路を一般車両等が通行することはなく、佐伯建設ないしその下請業者である原告がこれを専用していること(一般車両等の通行のため、工事専用道路に沿つてその西側に幅員四メートルのアスフアルト簡易舗装の道路が仮設され、これが一般道路となつていること、ただし、右道路は、事故現場の南方約六メートルの地点で途切れていること)

右工事専用道路内に立ち入つて水道の配管等の工事をするには、あらかじめ右開発局に対して書面によつて工事の許可申請をし、同局の許可を受ける必要があり許可した場合は、同局は、佐伯建設に連絡して申請人の作業の安全をはからせていること、被告は、工事をするには、右手続が必要であることを知つており、本件事故前に許可申請をして許可を得、右道路で工事をしたことがあつたこと、ひいて、右道路ないしその付近で作業することは危険であることを知つていたものと推認できること

3  ところが、被告は、開発局に対して事故当日の午前一〇時ころ、右工事専用道路で水道管埋設のための路面の掘削工事をする旨を口頭で申請しただけで、許可をうけることなく、その従業員であつた亡芳真他三名を午前九時二〇分ころから本件事故現場付近で右工事に従事させたこと

4  亡芳真は、右道路の西端寄りの道路内に幅一・二メートル、高さ〇・八二メートルの工事用バリケードを約五・七メートルの間隔で一個ずつ並立させて、その間で右道路面の掘削工事に従事していたこと、

5  原告保有のダンプカーは、土取山の採掘現場でだいたいシヨベルカーのバケツト二杯分(これでおおむね荷台は満載となる。)の土砂、岩石を積んで、幌をかけることなく、工事専用道路を走行していたこと、土取山から本件事故現場へ向けて進行する車両(加害車はこの進路をとつていた。)からの前方の見通しは、現場の手前約一五〇メートルの地点から現場は見通され、その手前約一〇〇メートルの地点からは前記道路左端(西端)寄りの道路内に並立する工事用バリケードがはつきりと確認できる状況であつたこと、亡芳真が掘削工事をしていた地点から約六メートル南方には、工事専用道路を横断する溝があり、この溝にはコンクリート製の蓋を敷きつめているが、道路中央から西側寄りの部分は三枚の蓋が破損して陥没し、両端の蓋にも破損箇所があり、路面から約二センチメートルほど突き出した部分が多く、この溝の上をダンプカーが通過する際には、車体が大きくバウンドするのが常態であり、土砂、岩石の積載の仕方、ダンプカーの運転の仕方如何によつては積荷が転落するおそれがあること、本件事故は、田中が、土砂、岩石を搬送するに当つてはこれが転落しないよう積載に注意し、かつ、右溝を通過する際には荷崩れがしないよう減速すべきであるのにこれを怠り、漫然時速三〇キロメートルのままの速度で走行した過失により加害車が動揺し、荷崩れを起して土砂、岩石が落下したために、生じたものと推認されること

以上の事実が認められる。

ところで、使用者は、被用者がその職務に従事するにあたつては、その生命、健康等が害されることのないよう適切な安全措置を講ずべき義務を負つているのであつて、被告としては、土砂、岩石を満載したダンプカーの往来の頻繁な工事専用道路内においてその被用者を水道管埋設のための路面の掘削工事に従事させるに際しては、事前に、右道路の管理者たる長崎県臨海開発局の許可をうけるのは勿論、同局を介してあるいは直接に、右道路を使用している佐伯建設や原告に対して、右道路への立ち入りにつき事前の通告をなし、自己の被用者に対する危険を防止するためとくに安全対策をとるよう申し入れ(たとえば、積載量を減らす、スピードを落とす、幌をかける、掘削工事中は岩石の運搬を中止するなど)、右対策がとられて被用者に対する危険がなくなつたことを確認してから右工事に従事させるべきであつたというべきであるのに、前認定のとおり、被告は、事故当日、口頭で開発局に対し右道路での工事を通告し、バリケードで工事現場の表示をさせたにすぎなかつたものであり、被告には、亡芳真の生命、健康等の安全に対する注意を欠いた過失があるものというべく、これにより本件事故を生ぜしめたものといわなければならない。

したがつて、被告は、不法行為責任に基づき本件事故による損害を、原告とともに賠償すべきものである。

第三死亡

請求原因三の事実は当事者間において争いがない。

第四原告の亡芳真およびその相続人に対する損害の賠償

その方式および趣旨により公務員が職務上作成したものであると認められるから真正な公文書と推定すべき甲一九、二〇号証、証人中西漠の証言、これによつて真正に成立したと認められる甲七ないし一二号証、一七号証によれば、請求原因四の事実が認められ、右証拠、本件記録によれば原告の訴え提起までの支払は金七五〇万円、訴え提起後訴え変更申立書提出までの支払は金六〇〇万円であることも認められ、そして、本件事故の態様、芳真の被害の程度(死亡)、前掲甲七号証によつて認められる右示談は双方いずれも弁護士である代理人によつてなされたこと、その他諸般の事情に弁論の全趣旨を併せ考えれば、原告の右支払は、その内容において本件事故により亡芳真およびその相続人が被つた損害に対する正当な賠償であり、右支払額と労災補償保険給付金を併せたものは、原、被告が、各自亡芳真らに対し賠償すべき右損害の額を超えないものということができる。

第五負担割合―求償

以上の次第であつて、原告は右支払につき被告に対し求償権を有するところ、前記事故の態様と前記第二の二で説示したところによれば、被告の負担すべき責任の割合は三割とするのが相当であると認められるから、原告は、右支払額の三割に当る四〇五万円を被告に求償しうべきものである。

第六結論

よつて、被告は、原告に対し金四〇五万円および内金二二五万円(本訴提起時までの原告の支払額の三割)に対しては訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五〇年八月一四日から、内金一八〇万円(本訴提起後訴え変更申立書提出までの原告の支払額の三割)に対しては訴え変更申立書送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五〇年一二月二日から各支払いずみまで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原告の本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木弘 丹羽日出夫 山崎宏)

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